慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんは呼吸をするために、健常人よりも多くのエネルギーを必要とします。いつもジョギングをしているような状態です。常に十分なエネルギーと蛋白質、ビタミンなど栄養素の補充が欠かせません。
第40回 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養療法
COPDの患者さんがやせる理由
COPDの患者さんは呼吸機能の低下や横隔膜の動きの悪さをカバーするため、呼吸筋を一生懸命動かして呼吸するので、健康人よりも呼吸に多くのエネルギーを消費します。しかしCOPDの患者さんでは、食事をとると、息苦しくなり、疲れる。また膨張した肺が胃を圧迫しているため、食欲がない。食事で十分な量をとれない。その結果栄養不足となり、重症になるに従って、しだいにやせてしまいます。
こうなると呼吸に使う筋肉が弱って、さらに苦しくなります。また呼吸リハビリテーションも十分に行えなくなり、その結果体力が衰え、呼吸機能が低下するという悪循環に陥ります。
呼吸商の低い食物を
食事で摂取した栄養分をエネルギーとして利用する時には、酸素が消費され、二酸化炭素が発生します。この時、酸素1に対して発生した二酸化炭素の量を「呼吸商」で表します。COPDの患者さんでは呼吸で二酸化炭素を排出する機能が低下しています。そのため呼吸商の低い栄養分をとり、肺の仕事の負担を軽減する必要があります。
バター、クリーム、オリーブ油、ゴマ油など脂質は呼吸商が0.7と低く(炭水化物は呼吸商が1と高い)、また高エネルギーの食品のため、少量で多くのエネルギーを摂取できます。おかずに炒め物や揚げ物を加えるなど、脂質を食事に取り入れて、効率よくエネルギーを補給しましょう。
必要な食物
健常人体重50Kgの人で、安静時必要エネルギーを1日1,500Calとして、COPDの患者さんではその1.5倍、2,200Calが目標となります。これは青年期の食事量に匹敵する量です。
多すぎて一度に食べられない時には、1日3回の食事に2回の間食を加えるなど、食事の回数を増やして、少しずつ食べるようにしましょう。果物、ヨーグルト、チーズ、ゆで卵などを手の届きやすい所に置いておくとよいでしょう。高エネルギー、高たんぱく質、高ビタミンの食事を食べるようにしましょう。
それでも十分な量を食べられない時には、高カロリーの栄養補助食品がありますので、呼吸器科で相談してみましょう。
控えたい食物
胃にガスが溜まりやすいものは、食欲が低下し、横隔膜の運動を制限しますので、避けましょう。ビール、炭酸飲料、さつま芋などです。
塩分の多い食品も控えましょう。COPD患者さんの心臓に負担をかけます。漬物、汁物、麺類、加工食品、インスタント食品などです。
食事上の注意点
COPDの患者さんは水分をとると痰が出やすくなり、気道の衛生を保てますので、意識して水分を補給するようにしましょう。むせやすく飲みにくい場合には、野菜ジュースなど濃い飲物がおすすめです。ただし重症のCOPDで心不全を合併している場合は塩分、水分制限が必要ですので、呼吸器科で相談して下さい。
また軽症のCOPD患者さんで、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病を併発した場合にも、食事制限が必要ですので、内科で相談して下さい。
以上の適切な栄養管理で、呼吸に使う筋肉を強め、体力を維持しましょう。これによってかぜなどの感染症による急性増悪を予防し、また呼吸リハビリテーションの十分な効果が期待できます。