慢性閉塞性肺疾患(COPD、肺気腫、慢性気管支炎など)は世界の死亡原因の第4位であり、さらに患者数の増加が予想されます。高齢化社会を迎えるわが国にとっても大きな問題となると考えられます。COPDの治療として薬物療法、呼吸リハビリテーション、酸素療法、外科療法などが行われます。今回はこれらのうち在宅酸素療法(HOT, Home Oxygen Therapy)についてです。わが国ではHOTは約9万人で施行され、そのうちCOPDが40%を占めています。
第37回 『慢性閉塞性肺疾患の在宅酸素療法』
在宅酸素療法とは
HOTは慢性の低酸素血症を伴う呼吸不全の患者さんに自宅で長期的に酸素吸入を行うもので、入院日数の減少、運動能力の改善が期待できます。酸素供給源として、酸素濃縮器が主に使用され、歩行時には酸素ボンベを使用します。これらからチューブ、鼻カニュラを通して酸素を吸入します。
低酸素血症が続くと、肺高血圧や心臓への負荷、脳の障害などが出現します。酸素療法はこれらの症状を改善することによって、生活の質を改善し、COPD患者の生命予後を延長します。
在宅酸素療法の適応
HOTの適応となる患者さんは病状が安定した状態で、血中酸素濃度が55Torr以下、もしくは60Torr以下で肺高血圧を合併しているか、睡眠時や労作時に低酸素血症をきたす人です。健康人では血中酸素濃度は80Torr以上あります。
在宅酸素療法の実際
HOTでは酸素吸入をできるだけ長時間、少なくとも1日15時間以上、理想的には24時間することが大切です。安静時に酸素吸入をして、血液中の酸素濃度が保たれるよう酸素流量を決定します。
睡眠中は呼吸の乱れが起こりやすいため、低酸素血症となることがあります。夜間睡眠中の血中酸素飽和度をモニターして90%以上になるように酸素流量を決定します。
歩行、食事や入浴など日常生活で不可避な労作時に低酸素血症の悪化がみられます。6分間歩いた時にどの程度の低酸素血症が起こるかを血中酸素飽和度モニターから判断して、酸素流量を決定します。通常は安静時の2倍程度となります。
HOT治療中には酸素濃縮器からのチューブが届く範囲内での生活になりがちですが、運動能力の低下を防ぐためにも外出や旅行も勧められます。近所の外出には酸素ボンベを使用し、遠方の旅行では飛行機内での酸素吸入、ホテルなどでの酸素濃縮器の使用が可能です。
HOTでもう1つ大切なことは禁煙です。これによって、COPDの進行を抑え、火傷や火災の発生を予防します。HOTが必要な患者さんはほとんどが重症で、かぜなどをきっかけに呼吸状態が急に悪化することがよくあります。呼吸困難が強くなった時には自分で酸素流量を増やさないで、すぐに呼吸器科を受診しましょう。
重症のCOPD患者さんでは禁煙、包括的呼吸リハビリテーションなどの治療とともに、HOTを施行することで生活の質や、生命予後を改善することが可能です。詳しくは呼吸器科でお尋ねください。