第31回 エコノミークラス症候群

 航空機の狭い座席に長時間座り続けると、まれに足の静脈に血栓ができることがあります。これが血流に乗って肺に達し、血管に詰まってしまうのを肺血栓塞栓症といいます。エコノミークラス座席のような狭い座席で起こりやすいため、この名がつきました。勿論船舶や自動車でも起こりえます。しかし航空機では長時間乗っている、座席が狭く足を自由に動かせない、内部の湿度が低く脱水になりやすいなど、悪条件が揃っているため、起こりやすいと考えられます。

症状

 症状は胸痛、呼吸困難で、通常は急に発症します。軽症の場合は症状が呼吸困難のみで、一般的な検査では異常所見がなく、診断が困難な場合があります。重症の場合は肺性心から死に至ることもあります。

予防

 足の静脈に血栓ができるのを予防するため、血流を良くするよう注意しましょう。

  1)水分を十分に摂取し、脱水にならないようにしましょう。
  2)足を動かしましょう。1時間に1度座席から立って歩く。座っている時も足を動かしたり、ふくらはぎを
    マッサージすることが有効です。

危険因子

血液が固まりやすい人

  1)女性ホルモン治療を受けている人や経口避妊薬をのんでいる人。
  2)糖尿病、脂質異常症の患者さん。
  3)抗リン脂質抗体症候群の患者さん。
    リン脂質に対する自己抗体が血液を固まりやすくします。全身性エリテマトーデスや
    習慣性流産の患者さんでみられます。

足の血液がうっ滞しやすい人

  1)病気などで長期に臥床している方。
  2)下肢静脈瘤がある人や静脈血栓症になったことがある方。

 その他肥満は両方の要因に当てはまります。妊娠中は腹部で静脈が圧迫されたり、出血に対する生理的反応から血液が固まりやすいため、血栓ができやすくなっています。これらの危険因子の数が増えるにつれ、発症頻度が高まります。

治療

 肺血栓塞栓症の急性期には血液を固まりにくくし、さらに肺に詰まった血栓を溶かす治療が行われます。足の深部静脈からの血栓塞栓症の場合、下大静脈にフィルターを挿入し血栓を捕獲し、肺に詰まらないよう、予防します。重症でショックや血行動態が不安定の場合には、手術が行われることもあります。

 肺血栓塞栓症による死亡者数は最近10年間に3倍に増加しています。肺血栓塞栓症の原因の90%は足の深部静脈血栓症です。肺血栓塞栓症発症前に血栓のため足がむくんだり、痛みが出現することがあります。もしこのようなことに気づいたら、呼吸器科か内科を早めに受診しましょう。

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