第8回 小児喘息

 小児の喘息では、診断や治療で成人と異なる点は多いですが、気道のアレルギー性炎症をコントロールする事が大切であるという点では成人の場合と同様です。 

1.診断

 小児で喘鳴、呼吸困難、咳を示す疾患は喘息以外にも以下のような疾患があります。

1)先天性異常、発達の異常による
 先天性心疾患、気管支軟化症、線毛運動機能異常など
2)感染症による
 クループ、気管支炎、細気管支炎など
3)その他
 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、気道内異物など

 小児では喘息診断のために必要な検査を十分に行えないことも多いため、家庭での症状や診察所見から、注意深く診断する必要があります。

2.使用する薬剤

 症状の強さに応じて、以下の薬剤を単独もしくは併用して使用します。

1)β2刺激薬吸入薬

 通常症状増悪時に使用します。使い過ぎると動悸などの副作用が出現しますので、1日の使用回数上限を決めて使用します。
 この薬にはアレルギー性炎症を抑える作用はありませんので、吸入ステロイド薬や徐放性テオフィリン製剤と併用して使用します。

2)吸入または経口抗アレルギー薬

 吸入ではインタール吸入液にβ2刺激薬を加えたものを定期的に吸入します。また経口薬は軽症例に使用されます。

3)ロイコトリエン拮抗薬

 小児にも適応が拡大されました。成人では一定の効果がみられており、小児でも使用が広まっていくと予想されます。

4)徐放性テオフィリン製剤

 気管支拡張作用に加えて、抗炎症作用も持つ薬剤です。吐き気や動悸、頭痛などの副作用がでやすいので、テオフィリンの血中濃度を測定して、投与量を決定します。

5)β2刺激薬貼付剤

6)吸入ステロイド薬

 重症度が中等症以上の患者で使用します。優れた抗炎症作用を持ち、小児喘息でも使用される頻度が増加してきました。
 副作用として、常用量では成長に影響を及ぼさないと考えられています。一方大量の使用では、成長の抑制や副腎皮質機能の抑制が報告されています。口腔内カンジダ症や、声枯れは治療量にかかわらず起こることがありますので、吸入後のうがいは忘れずにする必要があります。

7)経口ステロイド薬

 通常の治療を行ってもコントロールが得られない最重症例で使用します。副腎機能不全や骨そしょう症、肥満などの副作用がでやすいので、十分量を短期間に限って投与します。

 これらの薬剤を使用して、できるだけ早くアレルギー性炎症を収め、症状の無い状態を維持することが大切です。

3.学校生活と喘息

 体育の授業では運動誘発喘息に注意が必要です。これについては健康講座の第15回をご覧ください。
 食物アレルゲンによって発作が誘発される場合には、アレルゲン除去食が必要です。該当食品が明確で分離できる場合には(牛乳、果物など)除去します。しかし除去食品が多い場合や、重症で危険性の高い場合には学校給食よりも弁当持参が必要となることがあります。
 修学旅行などの学校行事では普段どおりの内服、吸入治療を継続します。発作の可能性がある場合には、あらかじめ短期間経口ステロイド薬を使用し発作を予防します。

4.思春期の喘息

 この時期には患者自身が治療の管理をするようになります。また受験などのストレスや、女子では生理などにより喘息症状が増悪します。特にこの年代の男子では喘息死が増加し、問題となっています。
 増悪を予防するためには、きちんと受診して治療方針を守る、夜更かしやたばこなど日常生活に注意する、自分が喘息であることの自覚を持つ事が大切です。

5.治療目標

 小児気管支喘息の長期治療の目標は、日常生活を健康児と同じ様に過ごすことができ、肉体的、精神的に成長し、成人後に喘息を持ち越すことなく治癒するよう導くことです。
 小児の喘息は思春期までに半数は治癒するといわれています。そのために治療を継続して気道炎症をコントロールし、喘息症状がない状態を維持することが大切です。この時期の喘息治療は患者にとって一生にかかわる重要な問題です。

 今後小児喘息の治療では、成人で著明な効果が認められている吸入ステロイド薬と、小児にも適応が拡大されたロイコトリエン拮抗薬などをどのように使用していくかの検討が待たれます。

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